ピアノをずっと弾いてきて、音楽の勉強までしたのに
その時は、音楽を聴くことが、まったく、できませんでした。
わたしは、赤ちゃんの頃から、アトピー性皮膚炎で
大人になってからも治らず
ステロイドを使った治療が悪いものと報道されたその頃
やはり、わたしもステロイドを拒否していました。
いままで症状を抑えていた薬を急に断ったのですから
もちろん、みるみるうちに、悪化しました。
特に、足は火傷のように熱をもち
包帯ぐるぐる巻きで
ほとんど寝たきりのような状態になってしまいました。
近くのコンビニへ行くのにも
やっとのことで、着替えていくような状態でした。
夜、眠りにつく時、
「このまま、明日の朝が来なければいい」と思いました。
ホトホト、疲れ果てて、現実に向かい合う気力がありませんでした。
そんな時、ステロイド悪の呪縛を取ってくださった方が居て
使用することによって、とても楽になりました。
久しぶりに、旦那さんと近くのスーパーへ
買い物に行くことが出来ました。
駐車場で車から降りた時
世界が広がったような、自由になれたような
開放的な気持ちになったことを、覚えています。
スーパーに本屋さんがあり、彼が本を見ている間
わたしは、近くのワゴンに入れられたCDを見ていました。
いわゆる廉価盤と言われる安いCDで
有名な曲のタイトルが並ぶのですが
少し録音が古いものです。
中に、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番があり
由緒あるオーケストラの演奏だったことと
久しぶりの外出で、開放的になれたからか
買うことにしました。
病気の症状からくる、うつ状態かも・・・と言われていたのですが
音楽を聴くことが、まったく出来なくなっていました。
何も感じない・・何とも思わない・・
何にもない・・何も考えたくない・・
本当に辛い時って、どんな刺激も苦痛になってしまうのです。
CDをかけると、ピアノが奏でる深い絶望の鐘の音からはじまり
オーケストラの寄せては返す波のような音のうねりが
心を揺さぶりました。
正に、わたしが感じていた、どうしようもない現実・・絶望・・苦しみ・・
自分の感情と聴いている音楽が重なり
ぐるぐるとお腹の中に溜めていたものまで
竜巻のようになって、出て行く感じがしました。
暗く激しい第一楽章から第二楽章に移り
さっきとは、打って変わったような穏やかで美しいメロディ
痛みや辛さに耐えようと
いつでも緊張していた体の力が抜けていくのを感じました。
固く閉ざされていた心が
少しずつ、じんわりと開いていくようでした。
何回も何回も、くり返し聴きました。
いままでの分を取り戻すように
何回聴いても飽きることなく
何回も何回も、ずっと聴いていました。
CD屋さんに勤める友達に、このことを話すと
この曲は、ラフマニノフが精神科医の先生に
献呈したものだと教えてくれました。
精神的な病に侵されたラフマニノフが
病気を克服した後、お世話になった先生に
捧げたものだそうです。
だから、音楽を聴けなかったわたしでも
すんなりと受け入れることが出来たのだと思いました。
当時の辛い心と体に共感し、やさしく寄り添ってくれました。
音楽に救われました。
でも、聴けない時は、そのままでもいいのだと思います。
聴けるタイミングがきっと来るのだと思います。
ブログに書くなんて
当時は想像もできなかったけど・・・
あらためて、人生は長いし
いろいろな経験を積み重ねていくものなんだなあと思います。